2010年12月25日土曜日

少女 湊かなえ

少女 (ハヤカワ・ミステリワールド)

【要約】
「死」を悟りたい。人間の死ぬ瞬間を見てみたい。二人の少女は、
それぞれ、病院と老人ホームで「死」を体験するために、行動を開始する。
【深読み】
なんか人間関係をぐちゃぐちゃにすればいいわけではないと思う。
先に設定というか関連性を決め手からそれを小出しにしていくとこうなっていくのか。
うーん、子どもがうそついてるのまでは読めた。
というか題名は「少女」というより「死」に関わる言葉にすべきだろう。
「告白」が売れたっていうことを意識しすぎ。さすが出版不況。
でもこのネガティブは文章は好き。
【備忘】
・そんなこと、わたしがわかったところで、どうなるというのだろう。
・じめじめとした二人が、お互いの悩みを打ち明け合っていれば、次第に惹かれあうこともあるかもしれない。

日本経済の真実 辛坊治郎

日本経済の真実―ある日、この国は破産します

【深読み】
良書。新自由主義というか経済学の基本を押さえての実体経済の話。
このひとTVであんまり印象もなかったけど、すごく見直した。
経済的に正しいことと、政治的に正しいことが違っている場合には、
経済的に正しいことをすべきだと思う。すくなくとも不況の場合には。
【備忘】
・駐車場や不動産賃貸ビジネスなど別の収入があったりするために、シャッターをおろしたまま商店を放置してしまうのです。

邪魔 奥田英朗

邪魔(上) (講談社文庫)

邪魔(下) (講談社文庫)

【深読み】
小さな不正。それは、どこにでもあるから共感してしまうのか。
なんかやだなと思う。でも、こういうことあるなって思う。
そこからありえない方向に向かう時の想像力。
詳細描写にもやけに共感できるのは観察力。
確かに「小太りで異様に額がせまいひと」っているよね。
【備忘】
・念のため今度はボタンで番号をひとつひとつプッシュした。
・スーパーに勤める男たちは女が嫌いだろうな、と恭子は思う。
・年配なのに髪を三つ編みにした女が親しげに恭子の腕をつかんだ。

2010年12月20日月曜日

最悪 奥田英朗

最悪 (講談社文庫)


【要約】
元請けから無理を言われる製造業の底辺を担う下請け町工場の40親父。
カツアゲや工事現場荒らし、パチンコでその日暮らしの風来坊。
都銀に入ったものの腐敗した組織で最低上司のセクハラに悩むOL。
それぞれが人の良さにつけこまれたり、騙されたり、理不尽な扱いを受けたりしながら、
最低の生活を送っていた。が、事件が3人を結びつけ、展開はあらぬ方向へ・・・
【深読み】
日々生きていて、人の自己中さ加減とか、ずるさとか、まの悪さとか。
それが一辺におしかけてくるありえなさとか。
そういうのがいーっぱい書いてある。
それが面白いのは完全に他人ごとだから?
製造業のおっさんに感情移入をしたので、
やるべきことがいっぱいあってあーもうどうにかこの状態から逃げたいという感情にやけに共感。
うまい。最後までさらっといけた。
【備忘】
・小さい方の給湯室の客はお茶だけでいいことになっている。
・溜息が出た。死ぬのも生きるのも、全部いやだった。

マドンナ 奥田英朗

マドンナ (講談社文庫)


【要約】
40超えていわゆる大企業の課長になったひとの日常のちょっとしたこと。
20台の女に淡い感情を抱いたり、一匹狼になれないから憧れたり、
規模の小さい不正に悩んだり、女の上司にやりにくさを感じたり。
ありがちなことを、その時の感情を、だれでも共感できるようにコピーをおりまぜながら、詳細に書いている。
【深読み】
やっぱりすごい。書きたいのは「言葉」ではなく、その裏にある「感情」。
そしてそれを伝えるために完璧な「言葉」をひねり出してくる。
しかも隙を見せない上司が最後に見せる隙が「野球ファン」っていうのもツボを抑えている。
さすがにそこまでは、他人を気にしてないとは思うから。誇張なんだろうけど。
想像力のなさを書くためにわざと間違えたとを言わせるのとかあり。
【備忘】
・八つ当たり気味にケースを叩いたら金具で手を擦りむいた。
・連れられていくとき、部下たちの哀れむような視線を感じた。

東京物語 奥田英朗

東京物語 (集英社文庫)

【要約】
東京での青春。
上京してきた時の怯え、
慣れてきた頃の浮かれた話、
自分って仕事できるんじゃねとかいう驕り、
いつまでも実家に帰ってくるものだと思っている母親、
なんでもいう事を聞くと思ってるくだらないクライアント。
想い出せば、すべてが大切な青春だった。
【深読み】
東京に出てきた日の母親の行動に共感。たしかに風景を見ておきなさいとか意味分かんないこと言ってたなー
しかも上京して三ヶ月くらいはみんなが自分のことを見ていて、田舎者だって馬鹿にしてるんじゃないかと心配してた。
【備忘】
・クリスマス一色となった街路を、着飾ったカップルがいちゃつきながら歩いている。転ばねえかなと念力を送ってみた。
・エレベーターの中で靴の紐がほどけているのに気づいた。反射的にかがんだら壁に頭を打ちつけた。
・母がいなくなると久雄はやかんでお湯を沸かした。なんとなくそういうことをしてみたかったのだ。
・山手線が久雄を追い越して行った。
・久雄は歩幅を小さくした。あまり早く駅に着きたくなかった。

2010年12月11日土曜日

この胸に深々と突き刺さる矢を抜け 白石 一文

この胸に深々と突き刺さる矢を抜け 上 (100周年書き下ろし)

この胸に深々と突き刺さる矢を抜け 下 (100周年書き下ろし)


【要約】
この世界で生きていくことの苦悩。
ちゃんと生活したいとは思う。
でもたまに馬鹿馬鹿しくなる。仕事も妻もこの世界のすべてが。

【深読み】
社会の理不尽さ。そんななかで自分の仕事の正当化。まわりの分かってくれなさ。
ほんとにこんなにばかばかしいけど。
そう思ってた。なのに自分が癌になった瞬間「生きたい」と思ってしまう。
ふざけている。けど、陥りがちな思考。
たしかに題名の通り。殺すなら殺してくれ。

さすがに後半の生まれ変わりとかそういう展開はくどい。
ていうかカタカナはずるいし、読みにくい。

【備忘】
・結局、自分の本心を誰かに吐露するという行為そのものが無意味なのだ。その無意味さにどこかで気づくために人間は特定の相手に我が思いをぶつける。この世界では希望は絶望のために存在し、期待は諦めの球根にすぎない。
・物理的に暴力を振るったり振るわれたりするのと、言葉によって傷つけたり傷つけられたりするのは脳科学的にはほとんど同じなのだという。だとすれば、誰かの持つ才能や雰囲気というものも、そば近くで接していれば、一時的にまたは恒久的に転写されるのは自然だろう。
・僕は話の内容ではなく、取材班の仲間意識を鼓舞する言動に務めた。こういう場合は権柄ずくや理屈めいた説得のしかたが一番反感を買う。
・「ちょっと寄って行ってください。コーヒーくらい淹れますから」そこで僕はまたくしゃみをした。「ほら風邪引いちゃいますよ」「これはわざと」
・総理になることでたとえ収入が半減したとしても、または十分の一に激減したとしても、なり手が減ることは絶対にありません。
・ヨシダがお前より恵まれているように見えるのは、ただ、お前がヨシダではないからだよ。

贖罪 湊かなえ

贖罪 (ミステリ・フロンティア)

【要約】
「告白」の作者の2作目。
ある少女殺人事件の目撃者になった4人。
犯人は結局捕まらず、被害者の母に言われた「贖罪」を胸に生きていく。
事項直前に4人にふりかかる火の粉。その影には被害者の母。
しかも犯人は・・・。

【深読み】
要約ってなんのためにするのかなー
それをまず決めないと上のようなありがちな話になる。

文体でしゃべってるひとのイメージが浮かんでくる。
子供って自己中というか視野が狭いよね。その描写がうまい。入り込みすぎ。
いや自己中ってことが子供だってことかな。

この人の意思は、なんなんだろう。
むごたらしい事件を書きたいのか。

母親の無念というか忘れて欲しくないというか。
「償え、犯人を見つけろ。さもなくば報復する」
とかいう。うーん。そんなこといってたけど。
結局は自分が原因だったという構造?

1作目は、「なるべく悪意を埋め込んだ」といっていた。
しかも、おもしろかった。
なんで悪意がつまってるものがおもしろいのか。
共感しないわけではない。

【備忘】
・そうして、いち同僚として接してるうちに、この人は少し苦手かもしれない、と思うようになったのです。田辺教諭はわたしとよく似ていました。そして、わたしは自分が嫌いでした。